夜間保育の実践を通して思うこと

園長 片野清美

新宿で
無認可としてスタート

1981年、ベビーホテル対策として、夜間保育が制度化されました。
エイビイシイ保育園は、1983年、東京・新宿区の歓楽街に近い大久保のビルの一室からスタートしました。
ベビーホテル全盛期で、資格も何もなくても、ネコもしゃくしも、無認可保育園を開ける時代でした。子どもを抱えて夜働く多くの女性たちがいる眠らない街・新宿。夜間保育施設にするつもりはありませんでしたが、場所がら、24時間型保育園になってしまいました。あらゆる親のニーズを受けとめ、どの時間帯でも預けることのできる保育園としての出発でした。(産休明け保育、乳児保育、夜間保育、深夜保育、緊急一時保育、休日保育、夜間学童保育など)
当時はまだ、夜間保育が「悪」とされる時代でしたが、どの時代でも子どもたちが、すこやかに育つことを願い、私たちは毎日奮闘しました。


お風呂の設備がなかったので近くの銭湯へ(無認可時代)

ほんとうに、無認可保育園というものはお金がなく経営はむずかしい。いつもいつも頭のなかは、やりくりのことばかりに追われ、バザーをよくやっていたものです。
経営のきびしいなか、いろいろな疑問にぶちあたりました。公立園や私立の認可園に通っている子どもたちは、みんなきちっとした処遇を受けているのに、なぜ夜間に来ている子どもたちは、なんの保障もないのだろう? それほど夜間保育を必要とする子どもたちは多かったのです。

1991年に区の補助金を受けられ、無認可ですが夜間保育室と認められ、経営も少し楽になると思ったものの、予想以上にエイビイシイ保育園を必要とする子どもたちは多くいました。訪ねてくる親の事情を聞くたびに断れなかったことを思い出します。
子どもが増えるごとに、経営はきつくなります。しかし、保育内容は充実し、楽しくなりました。職員も保育を楽しみながら、子どもたちと生活をともにしていました。いつも明るい夢や目標を掲げていたと思います。「いつかは、みんなで認可の夜間保育園を創ろう」と、夜間を必要とする親子のために、公的な立場の保育園を創ることを目標にし、つき進んできました。無認可保育園でありながらも、夜間保育園としての自負心や自尊心が原動力となり、たくましく、この保育園を支えていたのかもしれません。


1989年(無認可時代)

昼も夜も子どもは平等

2001年4月1日、東京都ではじめての24時間開所の認可保育園となりました。無認可保育園「ABC乳児保育園」としての18年間の実績を認められて認可保育園となり、「昼も夜も子どもは平等」という私のポリシーが達成されました。同じ思いでがんばってきた仲間たちの熱い思いが創りあげた、認可夜間保育園なのです。
基本開所時間は、午前11時から午後10時まで、前後13時間の延長があり、24時間開所しています。定員は90名(0歳15名、1歳15名、2歳15名、3歳15名、4歳15名、5歳15名)です。生後43日から、小学校にあがるまでの子どもたちです。職員は全部で47名。園長1名、保育士34名、栄養士4名、調理師3名、看護師2名、事務3名、その他嘱託医2名で構成しています。
保護者の職業は、公務員や会社員、医者、看護師、出版関係、芸能関係、デパート勤務、教師、自営業やサービス業など、多種多様です。母親はフルタイムの勤務者がほとんどのため、どうしても、延長保育や夜間保育が必要となります。

保育園が夜間まで、もしくは、24時間運営することは、多種多様な保護者の職業上、そして共働きの多い都市部では必要不可欠ということを、あらゆる機会に私は訴えてきました。しかしながら、生活スタイルが直接そういった時間帯に関係のない方々は、「どうして保育園を夜間までやる必要があるのか」「子どもは夜は親と暮らし、親元にいるのが一番いい」「子どもは昼間遊び、夜は寝るものだ」「水商売の人が多いんでしょう」などなど。夜間までという時間帯がどうして水商売という発想になってしまうのでしょうか。世の中、昼の仕事もあれば夜の仕事もある、多種多様な職業の恩恵をみんなが受けているし、世の中も成り立っているんじゃないか、とよく考えました。

夜間までの運営だからといって、そんな時間帯まで、子どもが遊んでいるわけではありません。保育園には決められた一日の生活リズムがあります。家庭にいるのと同じように食事をし、遊び、夜は8時には就寝するのです。一日の流れのなかで、子どもと生活している場や保育をしている場をはっきりさせ、保育園での生活のなかで、子どもがいかに過ごせるか、また親も、気がねなく長時間預けても、子どもとの生活がスムーズに園から家庭へ移行できるかを考えていくのが保育者の役割だといつも考えています。
また、保育の中身も、一日の流れのなかにメリハリをつけ、午前中は動きのある保育、夜は夕食をとり、お風呂に入り、静かな保育をと心がけています。
24時間都市・東京、そして、新宿を昼夜支えてくれている多種多様な職業の父母、また母子家庭や父子家庭など、家庭環境も人それぞれです。働きながら子育てをするためには多種多様な職業に対応できる「保育園」そして「保育時間帯」が必要です。


子育て支援(ベビーマッサージ)

「夜間保育は児童の心身の発達に悪影響をおよぼすか」、このテーマは夜間保育制度化以来、最大のテーマです。夜間保育を誕生させた厚生労働省局長通知でさえ「保育所における夜間保育については、児童の心身に与える影響等を考慮し従来実施していなかった…」で始まっています。
全国夜間保育園連盟では、安梅勅江氏(現・筑波大学教授)に委託し、このテーマに挑みました。「夜間保育の子どもへの影響及び今後の課題に関する報告書」と題されたこの調査研究の結論は、「子どもの発達状態には、保育の形態や時間帯ではなく、家庭における育児環境及び保育者の身体的、精神的な状態等の要因が強く関連している」というものでした。

子どもも親も
園生活を楽しく

私はこの35年間、夜間保育の実践を通じて、夜間保育園は”生活の場”であり、親も子どもも、ともに育ちあう所であり、なんら長時間保育をやっていても問題はないと確信しています。中身は量より質、愛情のかけ方であると思っています。
たくさんいる保護者のなかで心のケアを必要とする親、母子家庭でサービス業を仕事とし、朝方まで働いている親、離婚問題に悩む親、子育てと仕事の両立に悩む親など、さまざまな局面が垣間みえます。そのつど、夜間保育園で働いている私たちは、どこまで理解しサポートしていけばいいのか悩みます。
これが夜間保育園の特色かもしれません。いつも私は園長としてかかわるので、これまたおかしいのかもしれません。でも、私は聞いてあげないと気がすまない性格なのです。同時に、夜間保育園は、ほんとうにたくましい職員がいなければ、支えていかれないのかもしれないという気もします。また、地域の人たちによって支えられているとも思います。エイビイシイ保育園は、地域に根ざした保育園として成長しています。

エイビイシイ保育園には、年間を通して盛りだくさんの行事があります。親子遠足、七夕まつり、運動会、芋ほり遠足、七五三、クリスマス会、豆まき……幼児は、お泊まり保育や、クッキングパーティーもあります。
夜間保育だから何もしないというわけではなく、楽しい行事をいっぱい盛り込んでいます。近くの花園神社のお祭りにも子どもたちを連れていき、ヨーヨーをしたり、綿菓子を食べたり、金魚すくいをしたり…いろいろな店をのぞいてお祭りの雑踏を楽しんだりもします。夏場は、近くの銭湯にも行きます。運動会や、クリスマス会は大変! 保護者のほとんどが参加し、おまけにおじいちゃん、おばあちゃん、親せきの人までとくり出し、昼の親、夜の親など区別なく、楽しい時間を過ごします。
よく、ほかの夜間保育園では保護者が集まることがない、と耳にすることもありますが、エイビイシイ保育園は心配無用。子も親も保育者もほんとうに楽しい。何よりも子どもたちがいろいろな思いを共有し、楽しく保育園生活を送れることが大切です。それを眺めながら、成長する親も実にいい。保育者もいい。

ここで、一つの実例をあげたいと思います。
夜の仕事の母親で母子家庭。生後43日より保育園でJ君を預かり始めました。現在は3歳になりました。自宅は遠く、電車を乗り継いで通います。最初は生活リズムが狂いっぱなし。毎日夜の8時に登園し、ただ園では寝るだけ。これではダメだと、お母さんにJ君のためだからと話し、保育園と連携しながら、子どもの生活リズムが、昼夜逆転しないよう環境を整えることを提案しました。親はきつかったら、子どもを園に送り出したあと、ゆっくりすればいい、 と説得。
お迎えは朝方の4時。眠っている子どもをだっこして、自宅に帰る。そのまま親もいっしょに寝る。子どもは朝7時に起床し、食事をとり、午前10時までに保育園に入る。親はたいへんです。しかしこのくり返しを2年間つづけました。子どもは元気にすくすくと成長しました。保育園が楽しくて仕方ないようでした。親も育ちました。この2年間、本当につらいことがたくさんあったかもしれませんが、J君が、いきいきとして楽しそうな姿に、親も、ともに育ったのではないかと思います。今はもう朝10時登園で、次の日の朝4時まで園で生活しているJ君。
これを機会に、夜の仕事のお母さんたちは、自分の子どもたちもいきいきと育ってほしいという思いでがんばっています。

少しだけ親の背を押してあげることで、こんなにもいいスタイルを作りあげられることを知りました。また、今いる子どもたちも、長時間園にいても、しっかりとした睡眠を確保しているため、生活リズムもこわれず、元気で成長しています。そんな姿をみるたびに、日々の実践の大切さや、夜間保育の中身の濃さなど、社会にアピールしていくことの必要性を感じている毎日です。
長時間保育をしていても、子どもの心身におよぼす影響はまったくないと確信しています。保護者と保育園の努力しだいで、子どもの生活を改善できると思います。
私は胸を張って言いたい。昼間の保育園に通っている子どもたちより、生活リズムが整い、元気な子どもに育っていると。また、夜間保育園の特色として、時間を気にせず子どもたちとゆったりと過ごせるのが利点だと思います。
保育者にとって、夜間勤務をするということはたいへんです。しかし、夜間保育園を必要としている家庭があるかぎり、子どもとその家族のためにがんばりたい。”夜間保育園があってほんとうに良かった”と思ってもらい、子どもたちが友だちのなかで、楽しく過ごせたという思い出をたくさんつくること、それを私たちの生きがいとしたいものです。

子どもの豊かな生活を
保障するために保育士ミーティング

最近、また新宿でもベビーホテルが増えてきました。「子どもの最善の利益」を考えるとき、どうやったら、どの子にも平等に接してあげられるのだろうかと考えます。
夜間保育をすることが是か否かという論議をしてみても、夜働く親の抱える問題が解決するわけではありません。現実に、夜間保育を必要としている子どもがいるのなら、ベビーホテルに行かなければならない子どもがいるのなら、もっと安心できる、そして、子どもにとってより豊かに過ごせる、そんな生活の場を考えなければなりません。

そうすれば、親は安心して精一杯がんばって働くことができるのです。
いっしょうけんめい働いている親は、子どもとも、いい顔で向かい合えます。親が、子どもといい顔で向かい合えることほど大事なことはないのです。「保育園はこうあるべき」「家庭とはこういうもの」論では、現実の力にはなりません。
現実の親と子の生活の中から、現実の夜間保育の実践の中から、今日の保育、今日の家庭、今日の子育てのあり方を探っていくことが必要です。
どうか、一つでも多くの保育園が、勇気をもって「夜間保育」に踏み出していただきたいと思います。
それが、ベビーホテル問題の解決にもつながり、少子化問題の解決にもつながります。東京には、いまだに夜間保育園は2カ園しかありません。私は一人の保育者として、夜間保育の拡大に力を注いでいきたいと思います。

TOP