エイビイシイを利用している
保護者の職業と保育時間帯

保育園と学童の調査データ(令和4年度)

エイビイシイ保育園保護者より夜間保育の必要性と
保育園の関わり

まず夜間保育園と聞いてどのように思われますか?
世の中大半が「なぜそこまでして預けるの」「かわいそうに」このように思われるのではないでしょうか。私は新宿区にある「社会福祉法人杉の子会 エイビイシイ保育園」に5歳になる息子を5ヶ月の時から預けています。エイビイシイ保育園は認可の夜間保育園になり、他園と異なることは21時まで働いていることが条件です。夜間保育園に預ける親イコール水商売・・大きな間違いと言えるでしょう。我が家は、夫はホテルマンで深夜の帰宅になり、私はエステサロンを経営しています。私の仕事は、午前中は需要がほとんどなく、13時から22時がマックスインとなります。エイビイシイがなければ出産後、仕事を続けることは出来ませんでした。

今現在、女性の社会進出が当たり前の時代に突入しました。その背景には、年功序列の破綻や税金の引き上げ、正規雇用でなく非常勤雇用の増加、様々な時代の変化による低所得家庭があきらかに急増しています。いま、預けている保育園のお迎え時間がもう少し遅ければいかがでしょう。パート勤務、時短勤務でなく、フルタイムで働けませんか。私は自分に誇りを持っています。子供がいても自分の夢は叶え続けたい。夢は諦めなければいくつになっても叶う。そんな姿を子供に見せ続けられる親になりたいと思っています。安心して働き続けられるエイビイシイ保育園があるからです。また、入園と同時に子供の病気が見つかりました。命にかかわる病気ではなかったのですが、最低でも2回の手術が必要と告げられました。すぐに園長先生に報告しました。「どんな事があってもエイビイシイで責任をもってみるから、ママは子供にとっての一番を考えなさい」といって下さいました。どんなに勇気づけられたか、4年半をすぎるいまでも、鮮明に覚えています。病気を抱えたこどもの育児は想像をはるかに超え、心身とも疲れていました。そんな姿を見て、当時の担任の先生方は全力でサポートして下さいました。
何より頼れる身内が近くに居なかったので、保育園の先生方の存在に本当に救われました。
私の顔を見る度に暖かい言葉をかけてくださった園長先生や全力でサポートして下さった当時の担任の先生方、手術の成功で涙を流して心配して下さった保護者の方々、たくさんの方々の支えがあり、2度の手術を乗り越えることが出来ました。一生忘れることの出来ないそんな日々を過ごしました。安心して夜まで働けることの環境に感謝しかありません。

夜間保育に対する理解が低いことも現実です。ですが、昼間だけでなく夜間保育園も待機児がたくさんいることも現実です。エイビイシイ保育園の給食は、有機野菜にこだわり、野菜のおいしさ、栄養価の高い食事を提供してくれています。日々の活動では、英会話、リトミック、造形教室、食育、芋ほり遠足、お泊り遠足 必要に応じての療育教室の導入など、充実した保育園生活を送ることが出来ます。少子高齢化が進む中、安心して預けられる保育園があるので、エイビイシイ保育園は第2子、3子を生む方が多いです。

私も子どもの病気が落ち着いてきたので、第2子を希望しています。改めて思うことは、エイビイシイ保育園に通わすことができ、本当に良かったです。まだまだ足りない夜間保育園・・・。私たち夫婦のように必要な家庭は少なくないのではないでしょうか。
より多くの子どもたちに、夜間でも安心して預けられる夜間保育園を増やして欲しい、そう願うばかりです。

夜間におよぶ質の高い保育の効果:18年追跡根拠の活用に向けて

筑波大学 安梅勅江(あんめ ときえ)

1.保育利用の効果
質の高い保育は、子どものすこやかな育ちを保証するとともに、保護者の子育て力を育みます。私たちは18年におよぶ追跡調査に基づき、数多くの根拠を得ています。本稿ではその一端をご紹介します。
保育園を利用する保護者は、家庭で子育てする保護者と比較して、子どもをたたくなどの不適切な行動が少ないという特徴があります(図1)。また保育園の入園1年後には、不適切なかかわりをしていた保護者の6割近くに改善がみられます。「たたく」と回答した61.4%の保護者が、1年後にはたたかなくなります(図2)。子どもと遊んだり、本を読み聞かせたり、歌を歌うことの乏しい保護者は、1年後には66.7%、53.4%、61.2%がより豊かにかかわるよう変化します(図3)。
保育園を利用することで、専門職のパートナーシップのもと、保護者が安心して子育て力を発揮できる可能性があります。京都大学の柴田悠先生は著書「子育て支援と経済成長」で、最初にこの成果を保育の必要性の根拠としてあげています。保育の充実が次世代をしっかり育み、経済成長を促し日本を救う、と論じています。




2.認可夜間保育園利用の長期的な効果
夜間保育は子どもの育ちにどのように影響するのでしょうか?保育の効果は、生涯続くものです。私たちは長期におよぶ保育の効果として、卒園後の育ちを調べました。 実は、夜間におよぶ保育も、昼間の保育とまったく同様です。質が高い保育は、子どものすこやかな育ちを支え、保護者の子育て力を育みます(図4)。認可夜間保育園の卒園児の育ちに影響していたのは、保育時間の長さや時間帯ではなく、家庭でのかかわりの質や保護者への相談支援の有無でした。学童期に「なんとなく心配だ」と訴える子どもは、幼児期に保護者に相談相手がいない場合が、相談相手がいる場合に比べて8.4倍高くなっていました。学童期に「いらいらする」「さびしい」「あまり頑張れない」「誰かに怒りをぶつけたい」と訴える子どもは、幼児期に保護者とともに歌を歌ったり、本を読んだりなどの機会の乏しい場合でした。
これらは本邦初の18年におよぶ保育追跡調査の成果です。その結果は、諸外国から大きな賞賛を受けることになりました。夜間におよぶ保育であっても、保育の質が高ければ、子どもに望ましい影響を与えているのです。ユネスコの報告書では、「日本の認可夜間保育の質の高さはすばらしい。質の低い長時間保育の悪影響を多くの研究が報告するなか、質の高さゆえに長時間保育してもまったく影響はないという成果が得られている」と紹介されました。
一方、卒園児の特徴を明らかにするために、文部科学省が実施した全国学童データと比較してみました(図5)。その結果と卒園児本人の自由記述から明らかにされた「卒園後の効果」をまとめると、次の5点です。

①社会役割意識の醸成

「人の役に立つ人になりたい」と回答した子どもが、全国と比較して高くなっていました。

②向社会性の育成

「人の気持ちがわかる人になりたい」「人には親切にしたい」と回答した子どもが、全国と比較して高くなっていました。

③意欲の増大

「努力する人になりたい」「勇気のある人になりたい」「勉強のできる子になりたい」と回答した子どもが、全国と比較して高くなっていました。

④自己効力感の涵養

「誠実でありたい」「友だちから人気のある子になりたい」と回答した子どもが、全国と比較して高くなっていました。

⑤本人が認識する夜間保育の教育効果

対人技術、意欲、学習力、生活力、集中力、心の豊かさ、体力などに、卒園児自らの言葉でポジティブな効果があったと述べられていました。

卒園児調査より、社会のために役立ちたいという気持ちや、人とのつながりを大切にしたい、前向きに一生懸命努力したい、誠実で人から信頼される人になりたいなど、成熟した大人への育ちに保育が大きく貢献していることが示されました。
これらをみると、日々の営みの中での保育専門職の役割の大きさを、あらためて痛感します。子どもたちは、保護者や専門職など大人の背中をみて育ちます。保護者を支える専門職の頼もしさを感じながら、乳幼児期を過ごします。そこで育んだ愛着や仲間関係、生活習慣などは、子どもたちの生涯にわたり多大な影響を及ぼします。その大切な時期を、仲間や専門職とともに歩むのが子育て支援機関なのです。

3.すべての子どもに質の高い保育を:蓄積した実践知の活用に向けて
認可夜間保育園は、子どもたちの育ちを支え、保護者の子育てを楽しむ力を培ってきました。夜間におよぶ長い時間を子どもたちと共に過ごし、遅くまで働く保護者をしっかり支えることで、真の意味での子育ち子育てエンパワメント(湧活)を実現してきたのです。子育ち子育てエンパワメントとは、子どもの育つ力と保護者の子育て力、地域や社会の子育て力を引き出し、育つ力と育てる力を育むことです。質の高い夜間保育の環境は、まさに子どもたちが安心して思うぞんぶん力を発揮する、エンパワメント環境といえるでしょう。
世界中の保育に関する研究の成果は一貫しています。すなわち、質の高い保育を利用すれば、子どもはすこやかに成長します。質の低い保育を利用すれば、マイナスの影響があります。質が担保されていれば、時間の長さや時間帯は関係しません。
これらを踏まえ、今後さらに充実が必要な点は次の通りです。

①子どものすこやかな育ちには、「保育の形態や時間帯」ではなく、「家庭における育児環境」および「保護者の育児への自信やサポートの有無」などの要因が強く関連します。
②したがって子育て支援機関においては、子どもの育ちに適合した環境をいかに充実するかが重要な課題です。物理的な環境、人的な環境、保育プログラムを含め、子どもの育ちに寄り添う環境に心を配る必要があります。
③子育て支援機関の役割として、育児に関する相談相手となり、保護者の育児への自信の回復を促すなど、「子育てを支える」ための地域拠点としての支援の充実が期待されます。
④特段の配慮を必要とする子どもや保護者が増加するなか、さらに専門職の専門性を高める教育の拡充や、専門性の高いスタッフの配置が必須です。
⑤子どもと保護者、地域とのパートナーシップに基づき、子育ちを社会全体で支える仕組みづくりが求められます。
私たちは全国夜間保育園連盟が築いた質の高い保育の知恵を、「保育パワーアップ研究会」を通して全世界に発信しています(図6)。蓄積した英知を広く公開し、クラウドを活用した専門性向上の仕組みを構築しました(図7)。今では夜間保育にとどまらず、こども園、幼稚園、障がい児施設、母子保健センターなど、国内外の数多くの子育て支援機関が活用しています。保護者とのパートナーシップのもと(図8)、科学的根拠と経験的根拠を両輪とした質の高い保育の実現に向け、つねに努力を続けています。
夜間に保育を必要とする子どもたち、質の高い保育を利用できない子どもたちは、実際に何万人も存在します。「すべての子どもたちに質の高い保育を提供する仕組みづくり」が目標です。



参考文献

    1. 柴田悠、子育て支援と経済成長、朝日新書、2017
    2. 安梅勅江、いのちの輝きに寄り添うエンパワメント科学、だれもが主人公 新しい共生のかたち、北王路書房、2014
    3. 安梅勅江、子育ち環境と子育て支援ーよい長時間保育のみわけかたー、勁草書房、2007
    4. 安梅勅江、根拠に基づく子育ち・子育てエンパワメントー子育ち環境評価と虐待予防ー、日本小児医事出版社、2009
    5. 保育パワーアップ研究会、保育パワーアップ講座 長時間保育研究をもとに子どもたちのすこやかな成長のために、基礎編、活用編、応用編、日本小児医事出版社、2007、2008、2014
    6. 保育パワーアップ研究会:http://childnet.me
    7. 全国夜間保育園連盟:http://www.zenyahoren.jp

延長・夜間までやろうという認可保育園は
なぜ増えないのか

『 求められる、みんなが利用できる保育園に 』

夜も昼と同じ位いろいろな仕事がある。私たちの生活に必要な仕事をしてくれる人たちがいて、その家庭の子育てを支える夜間保育園。仕事と子育ての両立が出来れば、親は安心して2人目、3人目を産む。
全国で約30,000か所ある認可保育園は、ほとんどが午後7時前後に閉まってしまう。共働き家庭が増える中、午後5時から6時位までの就業でなければ利用できない。多様な働き方や職業に対応し、みんなが利用できる保育園にならないといけない。
もっと保育園が利用者に合わせて延長・夜間保育までやれば、働きながら子育てをしている家庭はどれほど助かるか。若い夫婦が2人目を産んでも、安心して働き続けられる社会に少子化は起こらない。
ではなぜ、延長・夜間保育までやろうという認可保育園が増えないのか。基本時間である11時間開所であれば、11時間分の運営費補助が出ているが、たとえば16時間開所をした場合、16時間分の運営費補助が出ないからである。基本時間以外は加算扱いで、開所時間に比例した補助体制がないため、長くやればやるほど経営を圧迫されるからである。認可の夜間保育園にいたっては、全国で75か所。75/30,000である。
厚生労働省が発表した2022年の合計特殊出生率は、1.26人。人口を維持するための出生率は、2.07人。人口維持を目標にするのであれば、大胆な改革が必要である。大胆な改革は、すべての働く親が、働きながらでも無理なく2人目が産めるようにすること。さらば昭和の保育所と言えるだけの実行が必要である。コンビニの名前ではないが、朝7時から夜11時くらいまで開所できれば、どれだけ働きながら子育てをしている家庭の助けになれることか。
病院と同じように、いつでも、誰でも、すぐに、利用できるようにならないといけない。なぜか肝心な所が手付かずである。
保育園に求められるニーズは、変わりつつある。保育園の運営費を開所時間に連動させなければ、改革は始まらない。昭和の保育所は変わらない。

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私たちの夜間保育園の運動は⼩さいものですが、
それでも続けなければなりません
そうしたことをするのは、保育業界を変えるためではなく
保育業界によって⾃分が変えられないようにするためです